週刊こーひーコラム
「プロのつぶやき」
プロのつぶやき1239【イルプル弓田さんに学んだこと】
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*12/30(土)〜1/4(木)お正月休みです。
12月に入って、朝3℃が続いています、冬ですね。昼間はぽかぽかの千葉ですが・・・。さかもとこーひーは一年で一番忙しい月ですので・・・欠品の無いよう段取りしていつも通りにお届けします。
先日、遠方から息子世代の同業の若い人が話しをしにきました・・・だいぶ以前に焙煎見学に来て、それから時々連絡・情報交換しています。3時間近く業界裏話しから始まって・・・・スペシャルティコーヒー、豆売り、カフェ等々業界の根本的な問題を話しました。
この業界は上手くいってもそんなに儲かるわけでは無いのですが(利益性・生産性が低い業種なので)・・・それでもみんな好きでやっているので、これからの若い人にはきちんと普通の暮らしができるくらいの商売はしてほしいものです。
そんなこんなで・・・フランス菓子のイループルーシュルラセーヌ弓田享さんが亡くなったとFacebooで流れてきました。77歳だったそうです。9歳年上だったんですね。
もう35年くらい前・・・確か月刊専門料理での対談だったか記事だったかで過激な発言をされていて、どんなお店・シェフ・味なんだと代々木上原まで毎月通ったのを思い出しました。
お店のカフェでいくつも注文して食べて、さらにたくさん買って、一回に一万円くらい毎月使っていました(笑)
苺のショートケーキ、オレンジのショートケーキ・・・フォレノワール、オペラ・・・シャルロットオポワール、シブースト、ショソンオポンム・・・エクレール、シューアラクレーム・・・お店でしか食べられないブランマンジェ、アイスクリーム、ミルフィーユ・・・。
それまでの洋菓子には無い、鮮やかな味わい、繊細だったり、なめらかだったり、歯ごたえが快感だったり・・・口全体を様々な食感や口当たりで満たし、余韻がまた気持ち良い・・・弓田さんの仰るフランス的な味わいを食べ込んだものでした。
坂本はパティシエの修行もしていないし、ケーキ屋をするつもりもなく、紅茶の店で手作りのパウンドケーキとか焼いていただけなのに、毎月毎月通いました。
「patisserie francaise その imajination 1 日本とフランスにおける素材と技術の違い」(1985年2月初版)から「フランス菓子おいしいお菓子を味わうために嘘と迷信のない作り方教室」(1991年4月)等々高い本が多かったのですが・・・本が出ると即買って読んでました。
さらに、六本木での第1回ケーキ教室まで通いました・・・ランチのクロワッサンとインスタントコーヒーが印象的でした。それまで食べたことがない豊かな風味のクロワッサンにインスタンコーヒーのギャップに驚いたものでした。紅茶やコーヒーを一生の仕事とする人間にとっては・・・・その豊かなケーキやクロワッサンに合わせるのがインスタントコーヒーなのかと時代を実感したものでした。
今の70代80代のフランス料理やフランス菓子のシェフたちは・・・仕事としての料理やお菓子を極めても、そのシェフ達自身の暮らしからは遠い商品だった時代なんだろうと思っています。
昔は料理の腕は良くてもワインはあまりとか、デザートはあまりといった時代でした・・・それが今のシェフはワインもデザートも当たり前のようにレベルアップしています・・・成熟してきています。
勿論、お客さんはさらに食べて飲んで・・・楽しんでいる美味しいもの大好きなかたがたくさんいらっしゃいます。
そうそう・・・コーヒー紅茶の坂本がなぜ弓田さんの本読んだり、教室に通ったのか?・・・「美味しさ」を追いかけていたんです。
コーヒーや紅茶は液体で・・・口当たりや歯応えや味わいのテクスチャーが弱いので、色々な料理やお菓子の美味しさの構造を知りたかったんですね。それにコーヒーや紅茶を専門としていても・・・お客さんは色々な料理やお菓子やお酒を楽しんでいますから・・・美味しいもの好きなお客さんの感覚も感じたいわけです。
最初にインパクトあったのは・・・日本のスポンジケーキはダマがなくて、肌理の細かいスポンジばかりだと・・・しかし、肌理の細かいスポンジの美味しさもあれば、期目の荒いスポンジの美味しさもあるんだと・・・なるほど。
そしてシンプルなショートケーキでも・・・スポンジの底をケーキの真ん中になるようにして、シロップをたっぷりと打つ・・・そうすると食べた時に舌が感じるのはスポンジの柔らかな面で、しかも肌理の荒いスポンジにシロップをたっぷり打ってあると、スポンジ、生クリーム、苺が一体となって味わえて、消えていくと・・・これは紅茶の店テ・カーマリーでも、息子たちへの誕生日でもXマスでも手作りケーキで実践しました。
あとは、フィナンシェで・・・フィナンシェの肌理の荒さ、焦がしバターの焦がし具合がポイントで・・・有名なお菓子屋さんでも肌理の細かいフィナンシェやバターの焦がし具合の甘いフィナンシェが結構ありますが・・・フィナンシェのアーモンドプードルとバターのリッチな味わいと後味のキレの良い心地よさは肌理荒くざっくりと混ぜて、しっかりと焦がしたバター、そして少しの蜂蜜によってグッと魅力的になると学びました。
そんな感じで様々なフランス菓子を食べては、美味しさの構造を学んだ30代でした・・・代々木上原から代官山で移転してからは数回しか行っていませんでした。お菓子という平和な仕事の割には怖い表情、過激な発言が印象に残っています。日本的な洋菓子に対して、フランス的な魅力のフランス菓子を切り開いていくエネルギーが伝わってきたものでした。
さかもとこーひーの美味しさの感覚の基礎になっています。
R.I.P
さかもとこーひーは「部屋中にひろがる香りと後味の美味しさ」を大切にしています。
2023年12月03日
坂本・丁寧な暮らし・孝文
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